
HOME > 音風景:記事 > 「菅生山大宝寺」~梵鐘の音~
私は博物館や科学館の音響システムを構築する仕事に従事し、仕事柄、全国各地を回るうちに自然の音に興味を持ち始め、数十年も前からいろいろな音を収集してきた。今回は、以前から計画していた四国霊場八十八カ寺の「梵鐘の音」(除夜の鐘などで知られる、「ゴーンという音」)を録音してみた。

前日までは毎日のように雪がちらついていたが、当日は、それがうそのように晴れた。風もなく、とてもおだやかで、録音するには最高である。お寺は八十八カ所もあるので、まずはテストも兼ね、自宅にほど近い菅生山大宝寺から始めることにした。(菅生山大宝寺は、四国霊場八十八カ寺の真ん中にあたる44番札所)

奇妙な音がする手水場
天気は良いと言っても日陰はまだ寒く、防寒具を着て長靴を履き、重装備にして出発。参道に入ると、樹齢千年とも言われる杉並木を横目にして梵鐘のある本堂へと向かった。その途中、手水場から奇妙な音が聞こえてきた。いったい何の音だろう?その正体が知りたくて水場を探ってみた。すると、山から引いてきた水が平たい石の下に潜り、それが浮き上がるときに出る「泡の音」だったのである。これは面白い音だと思い、さっそく録音開始。はじめはマニュアルで録音してみたが、どうもうまくいかない。そこでオートにして録音。夫々を聞き比べてみると、オートの方が臨場感もあって、それらしい音になっていた。
足元に残っている雪に気をつけながら仁王門をくぐり、ゆっくり石段を登ると真正面に本堂が、そしてお目当ての梵鐘が見えてきた。よく見ると梵鐘は二つある。本堂に向かって左側は戦前、右側は戦後になってから建立されたそうだ。どちらも立派で、さっそく録音することにした。
まずは右側。参拝する人の邪魔にならないよう、梵鐘からは5メートルほど離れた所にレコーダーを設置(三脚使用)。最初はマニュアルにして、鐘の撞き方や録音レベルの調整に試行錯誤、なんとか納得できる音が録れた。(その結果、何度も鐘を撞くことになってしまったが…。)オートでも録音してみたが、これはマニュアルに比べ、迫力はないものの「広がりのある音」になっていた。
これに習い、左側にある梵鐘も同じ方法でやってみた。

梵鐘の音を録音している様子
ところが、こちらの梵鐘は、撞き棒が短くなっていて鐘までの距離がある。力いっぱい振らないと右側のときのような音量を得られない。結局、こちらも何度か試し、右側の鐘とはまた違った「深みのある音」が録音できた。是非、左右の梵鐘の音を聴き比べて欲しい。余韻も感じることができると思う。
このほかにも「小さな鐘」、「賽銭箱」、「噴水」など、音の出るものがあったので、いろいろ手法を変えて録音した。

録音レベルを確認中

四国霊場八十八カ寺の中には、本堂までかなり歩くことがあるのでLS-10のコンパクトサイズは非常に助かる。デンスケ(ICレコーダー以前の肩から下げる大きな録音機)を持ち歩く時代には、こんなこと考えたであろうか。もちろん、音も良く、他のものと比べると天井板を外したような明るい音になっていた。少し気になることと言えば、音の最初と最後に出るスクラッチノイズくらいだが、これは編集ソフトで処理できるから問題ない。さて次はどこのお寺に行くことにするか…