

明治15年(1882)開園という日本で最も古い上野動物園へ現代テクノロジーの結晶「LS-10」を持って野外録音に出かけた。それにしても動物園などの娯楽施設は、ありとあらゆる音に満ちていて、そう簡単に動物たちの鳴き声だけを録らせてはくれない。が、見方を変えれば動物園はフィールド・レコーディングの良い練習場だと言うことができる。
いろんな音が充満する中で、明確な録音対象がある場合のセオリーはひとつ。
「その音をハッキリと、その他をボヤボヤに録る。」
早い話が対象に近づいて録音すれば良い。ところが、もっとも近くにいる動物よりも隣で手すりを叩いて奇声を発している子ども達の方が圧倒的にマイクに近い…というのが微笑ましくもニガニガしい現実だ。そんなわけで、音の主役と脇役をはっきりさせるためには少し工夫が必要になってくる。

ライオン
動物といえば、百獣の王ライオンが頭に浮かぶ。ただ、その鳴き声はテレビなどでしばしば流れるものの、動物園でライオンの声を実際に聴く機会は少ない。さらに、ライオンはぐるりと高い塀に囲まれていて、隙間は皆無であったので、塀の低い部分を探し、録音状態にした「LS-10」をポールの先に取り付けて、しばらく待つことにした。
ところで、ポールの先に直接取り付けて録る方法はグリップ・ノイズ(ポールを持つ手のガサゴソ音)が入るの本来はオススメできない。しかし使ってみると「LS-10」は本体の手持ち録音さえ可能だと分かり、ちょっと驚いた。グリップ・ノイズをここまで軽減するためにオリンパスが投入した技術はおそらく二つ。一つは本体の振動をマイクに伝えない独自の制振構造と低域の周波数特性が調整された内蔵マイクだ。

録音の様子
低音を落とせば手持ちノイズは減る。しかしスカスカな音になってはマズい。開発スタッフはこの「落としどころ」で苦労したに違いない。個人的にはもう少しローを拾っても良いと思うが、録音の世界で非常にムズカしいのが低音の処理。レコーディストが100Hz周辺の音をきちんとコントロールできなければ、ただ単にヌケの悪い音になってしまう。
「手軽」に「高音質録音」というのはサイズを小さく、軽くすれば良いだけの話ではない。「LS-10」はこの矛盾したニーズにひとつの良質なバランス感覚を提示してくれている。また、マイクプリアンプの低ノイズ設計が「LS-10」の優れた特徴であることも、その技術力に敬意を表し付記しておきたい。

オウサマペンギンの親子
さて、肝心の鳴き声はというと、心配をよそになんとか鳴いてくれた。「ガォー」というよく知られた怒声ではないが、じゃれ合うライオンはこんな風に鳴く。
またオウサマペンギンも、今年九月に生まれたヒナが元気に鳴いていた。親子の鳴き合いを聴いてみて欲しい。
動物園という場所で録音していると、私を遠巻きにして、何やらコソコソとささやき合っている修学旅行生や、「○△ちゃんっ!そっちに行っておじさんの邪魔しちゃダメっ!」と叫んで、ご自身が録音の邪魔になっているママさんたちに出会うことも珍しくない。二時間待ち続けた動物は得てしてそんな時に鳴く。ママの叫び声にぴったりと唱和して。人生は時としてほろ苦い。
でも、私のリニアPCMライフはalways sweetだ。